はじめに:アクシデントレポートは「怒られるための書類」じゃない
転倒、接触、介助中の事故…。
介護や医療の現場では、「ヒヤリ」とする場面が日常的にあります。
でも、いざ報告書を書くとなると
- 「怒られそうで書きにくい」
- 「何を書いたらいいか分からない」
- 「とりあえず“転倒”とだけ書いてしまう」
そんな経験はありませんか?
ですが、実際には「床に倒れていた」からといって、必ずしも“転倒”したとは限りません。
自ら座り込んだ、あるいはその場にゆっくり横になった可能性もあります。
アクシデントレポートに必要なのは、事実を正確に伝えること。
本記事では、現場でリスクマネジメントにも関わってきた理学療法士の視点から、
- レポートの書き方の基本
- よくある間違い
- 書くときの心がまえ
をわかりやすくお伝えします。
アクシデントとヒヤリハットの違い
まず用語の整理から。
区分 | 内容 | 例 |
---|---|---|
アクシデント | 実際に事故が発生し、身体的・精神的な影響がある | ベッドから転落し、擦過傷 |
ヒヤリハット | 事故には至らなかったが、危険を感じる場面 | 段差でつまずきかけたが、転倒はせずに着座できた |
どちらも再発防止のために記録・共有することが大切です。
アクシデントレポートの基本構成|5W1H+対応
アクシデント報告では、感情や推測ではなく、「何が起きたか」を客観的に伝えることが重要です。
✅ 書くべきポイント
- いつ(When):日時、何時ごろか
- どこで(Where):場所(トイレ・浴室・廊下・ベッドなど)
- 誰が(Who):対象者、関わった職員
- 何を(What):事実としての出来事
- なぜ(Why):推定原因(無理に断定しない)
- どのように(How):経過や状況、経時的な流れ
- その後の対応:観察、処置、家族報告、主治医への連絡など
⚠ 書くときの注意点|“憶測”と“事実”を分ける
✅ ① 倒れていた=転倒とは限らない
例:×「転倒していた」
→ ○「居室内で仰臥位で床に臥床している状態を発見」
➡︎ 実際に転倒の瞬間を目撃していない場合は、“転倒”と決めつけず、状況を客観的に記述することが重要です。
✅ ② 原因を自己判断で書かない
例:×「私の不注意で」
→ ○「●●を介助中、右足が滑る様子が見られた」など観察した事実を書く
✅ ③ 「特になし」で流さない
例:×「特になし」
→ ○「外傷は確認されず、本人は痛みの訴えなし。家族に報告済み」など対応や確認内容を丁寧に
よくあるNG表現と改善例
NG例 | 改善例 |
---|---|
「急に転倒した」 | 「15時10分頃、居室内で立位中に前方へ崩れるように倒れた」 |
「滑ったと思われる」 | 「床は乾いており、滑った様子は見られなかった。詳細は不明」 |
「不明」だけで終わる | 「転倒の瞬間は確認できず、発見時は右側臥位で床に臥床していた」 |
書くときの心がまえ
アクシデントレポートは、誰かを責めるためのものではありません。
- 事故の背景には“仕組み”の問題がある
- 同じ事故を繰り返さないための第一歩
- あなた自身を守るための記録でもあります
現場でよくある転倒・接触事故こそ、チームで共有し、小さな対策から変えていくことが大切です。
理学療法士の視点から伝えてほしいこと
アクシデントレポートには、以下の情報が入っていると、リハ職・他職種が再発防止に動きやすくなります:
- 転倒時の姿勢・方向(前方/後方/側方など)
- 使用していた補助具や靴の状態
- 室内環境(滑りやすさ、障害物の有無)
- 直前の行動(立ち上がり中、歩行中、トイレ移動など)
- 日頃と異なる様子(混乱、眠気、訴えなど)
まとめ:報告できる職場こそ、安心して働ける職場
「怒られるから書かない」「見なかったことにしよう」
——そんな空気がある職場ほど、重大な事故を引き起こしやすくなります。
アクシデントレポートを書くことは、
- 利用者の安全を守ること
- 職場のチーム力を高めること
- あなた自身の身を守ること
につながっています。
そして、レポートを集めて分析することで、施設内の事故が起こりやすい「時間帯」「場所」「行動パターン」などを把握し、全体で対応策を講じることができます。
これは再発防止だけでなく、職場全体の安全文化を育てる土台になります。
まずは“事実を正しく伝える”ことから。
少しずつ、書きやすく、報告しやすい職場を一緒に作っていきましょう。
著者プロフィール
こうへい|理学療法士・運動器認定PT・主任
- 理学療法士歴9年(療養病院→急性期→老健)
- 現在は老健で主任を務め、介護職への記録指導や研修を多数実施
- 「現場で役立つ情報をわかりやすく」をテーマに発信中
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