はじめに
変形性膝関節症の方にとって、歩行は日常生活の大きなハードルになります。
「膝が痛い」「ふらつく」「つまずきやすい」といった訴えがある中で、杖などの歩行補助具を導入する場面も多いでしょう。
しかし、ただ「杖を持たせれば安心」というわけではありません。
選び方・使い方を誤ると、逆にバランスを崩して転倒リスクが高まることもあります。
この記事では、理学療法士の視点から、
- 変形性膝関節症の歩行の特徴
- 杖の種類や選び方
- 正しい使い方と介助時の注意点
について、現場でよくあるケースも交えながら分かりやすく解説します。
変形性膝関節症の歩行パターンの特徴
変形性膝関節症(Knee Osteoarthritis:膝OA)では、膝の痛みや可動域制限により、次のような特徴的な歩き方が見られます。
- 疼痛性跛行(とうつうせいはこう)
→ 痛みのある足をなるべく早く地面から離そうとするため、歩幅が小さくなる - 体幹の前傾・側屈
→ 膝を伸ばしきれないことで体が前かがみになったり、体重移動時に左右に揺れたりする - 患側をかばう歩行(非対称性)
→ 片側の膝にだけ痛みがある場合、そちらに体重を乗せないようになり、バランスが悪化する
これらの歩行パターンは、転倒リスクの上昇や活動量の低下を招きます。
歩行補助具が必要になるサイン
次のようなサインがあれば、杖などの補助具の導入を検討すべき時期かもしれません。
- 歩行中の痛みが強く、距離が短くなってきた
- 歩いていてふらついたり、バランスを崩すことがある
- 家の中でも「つかまる場所がないと不安」と言う
- 痛みをかばって歩いていたら、反対側の膝や股関節まで痛くなってきた
補助具の導入は、「自立を諦める」ことではありません。
適切な補助具は、“自立を維持する”ための手段です。
杖の種類と選び方
歩行補助具としてよく使われる杖の種類は以下の通りです。
① T字杖
- 最も一般的な杖
- ある程度バランスが取れる人に適しており、屋内外の移動に使いやすい
② 4点杖(多点杖)
- 杖の接地面が4点あるため、安定性が高い
- 歩行のふらつきが強い人や、歩行が不安定な初期に使用されることが多い
杖の「長さ」の合わせ方
基本は以下の方法で合わせます:
- 利用者が自然に立った状態で、手すりを下ろした位置が大腿骨大転子 or 手関節の高さ
- 肘が15~30度程度曲がる位置が理想
杖はどちらの手で持つ?
原則として、健側(痛みのない方)で持ちます。
理由は、杖で支えながら患側に体重を乗せると、荷重の軽減と安定性の確保ができるからです。
杖の正しい使い方
基本的な歩き方の順番は、
杖 → 患側脚 → 健側脚
この順に出すことで、杖と健側脚がセットで患側脚をサポートする形になります。
よくある間違いと注意点
- ❌ 杖を患側で持ってしまう(支えにならない)
- ❌ 杖の出すタイミングが遅くて、支えられていない
- ❌ 杖に過剰に体重をかけすぎて、逆にバランスを崩す
初期には、介助者が声かけでテンポを整えるだけでも、本人の安定性が大きく変わります。
介助者の注意点
「杖を持っているから安心」という油断は禁物です。
むしろ、バランスを崩したときに支えが杖だけだと、転倒しやすくなるケースもあります。
介助者の立ち位置と関わり方
- 基本は患側や後方斜めに立つ(転倒時のサポートがしやすい)
- 必要に応じて腰帯(ベルト)や肩・肘へのサポートも検討
- 本人のペースを乱さず、「歩幅・テンポ・重心移動」に合わせるように意識する
介助時のNG例と修正ポイント
- ❌ 杖を信用しすぎて、介助者が前を歩いてしまう
→ ✅ 常に視界に入る位置で、声かけ・見守り・手添えを意識 - ❌ 腕や杖を急に引っぱる
→ ✅ 体幹や骨盤を安定させるサポートが理想(必要時)
まとめ
変形性膝関節症の方にとって、適切な歩行補助具の選定と正しい使い方は、
自立支援・活動性の維持・転倒予防に直結する重要なポイントです。
介助者が正しい知識を持ち、無理のない範囲での補助ができれば、
利用者の安心感や意欲にもつながります。
理学療法士としての経験からも、
**「杖をただ渡す」のではなく、「その人に合わせた選定と使い方を伝えること」**が、支援の質を大きく左右すると感じています。
筆者プロフィール
- 理学療法士歴9年(療養病院3年/回復期病院3年/介護老人保健施設3年)
- 運動器認定理学療法士
- 介護支援専門員/福祉住環境コーディネーター2級
- 現在は老健でリハビリ主任として勤務
- 介護職・ご家族向けに「安全な介助方法」や「リハビリの視点」について情報発信中
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